株式会社マックスデザイン

2025年6月2日 週刊エコノミスト 「会社の流儀」掲載

コロナ後のIT企業の在り方。「脱東京」を志し
廃校跡地に拠点。リアルでもネットでも分散を目指す

株式会社SGN代表取締役社長 脇元寛之

 2011年3月の東日本大震災の折、震源から相当の距離があるにも関わらず、交通や流通などの都市機能が麻痺した大都市・東京の脆弱性を、私たちは目の当たりにした。その経験をきっかけに「過密・東京の閉塞感」を問題視し、東京都心から電車で片道2時間の埼玉県比企郡小川町への移住を決意した人がいる。1999年5月に開業、08年11月に法人設立したIT企業・株式会社SGNの創業者、脇元寛之社長だ。

緑豊かな小川町の田園風景

 当時から新宿区高田馬場に本社を構え、数名の腕利きエンジニアを擁して、インターネット出現以前の「枯れた技術」から、現在のクラウドやAIなどの「最先端技術」まで幅広く対応してきた同社。脇元社長は移住を果たして以来毎日、片道2時間かけて通勤していたという。

 そんな折の20年初頭、23年5月まで長引く「コロナ禍」が我が国を襲う。同社はこれを契機に同業他社に先駆けていち早く、20年3月27日より「完全リモートワーク体制」に切り替えた。設立当時からの「完全フレックス制」や14年からの「リモートワーク可」など、今で言う「働き方改革」を早い段階から実践していた同社にとって、準備期間僅か1日での全社員のリモートワーク化の実現は朝飯前の変更だったという。

 一方脇元社長が住まいを置く小川町では、コロナ禍真っ盛りの頃から町主導で、14年前に少子高齢化による生徒数の減少で廃校になった旧上野台中学校の跡地利用プロジェクトが進行していた。鉄筋コンクリート造の立派な校舎の空き教室を、多業種の企業のサテライトオフィスとして提供するもので、名付けて「UECHU(上野台中学の略)」プロジェクトだ。同社も地域貢献の一助になればと、喜んでこのプロジェクトに参画。現在では、システム開発用に改装を施した「UECHU」施設内の2区画で、イベント運営や新たに採用した人材の育成を行っている。

旧上野台中学校跡地の「UECHU」外観
元コンピュータ室を活用した開発環境
大きな黒板が往時を偲ばせる

 また、このプロジェクト参画のもう一つの目的に掲げた「社会問題の解決」の一環として同社は、同じく「UECHU」に参加しているドローン研究者との連携で、ドローンやAIを活用した防犯システムの研究・開発を展開している。というのも、「UECHU」周辺の約1000世帯の一軒家では、近年空き巣被害が頻発しており、その対策が地域の課題として浮上していたからだ。そこで協業による技術開発で解決を目指すことになる。このプロジェクトによって利益を得ることは難しいが、「地域貢献を優先する」というスタンスで取り組んでいる。

上流から下流の受託開発と
先端自社アプリ開発が両輪

 熊本県合志市出身の脇元社長は、熊本大学工学部電気情報工学科在学中から、企業からの依頼で仕事としてシステム開発に従事してきた。その活動の延長で、自然の流れで99年5月に東京の地で個人事業として開業。やがて数名の腕利きエンジニアが仲間として加わり、08年11月に同社を設立する運びとなる。

 以来、請負の受託開発をメインに、企画・提案から開発、デザイン、サポートまでの全工程を社内で完結できる体制を構築。上流から下流までワンストップで請け負える技術力は、腕利き揃いの同社ならではの強みだ。新規採用は地元小川町周辺地域からの雇用を優先して進めており、近年入社の3名は「UECHU」にて最先端の技術修得に向けて育成中だ。

「UECHU」で行われる新人研修の様子

 一方同社では、先端技術を駆使した自社サービス・アプリケーションソフトの開発や運営にも車の両輪として精力的に取り組んでいる。

 その一つが、オープンソースのマイクロブログ型SNS「Mastodon(マストドン)」の普及支援だ。マストドンとは、17年にドイツのエンジニアによって開発されたSNSで、言わば「自分でサーバを建てられるX(旧Twitter)」。「X」のような巨大な中央機関に支配されることなく、個々の運営主体同士で相互に繋がり、多方面で情報発信・受信が出来る、様々な価値観の共存を肯定するシステムだ。現在でも、こうした独立運営主体は世界中で1万件ほど稼働しているという。

現在のインターネット環境は、フェイクニュースの蔓延やSNSの炎上、政治的分断の助長や広告収入を目的とした無意味なサイトの乱立などによって利用価値が下がりつつある。これらの問題の解決は志あるIT企業の責務だと考えます。そこで当社では、その切り札となり得る『マストドン』を始めとする分散型SNSの導入支援や普及活動に取り組んでいます。その一環として独自のクラウドサービス=活発に議論が出来るプラットフォーム『GironHub』を開発・運営しています」と、脇元社長は「インターネット上の閉塞感」という現状の危機を打開する方法を提案している。

「分断より分散」持続可能な
好循環の形成を志向

 そもそも同社が「GironHub」を開発した動機は、「なぜ『X』などのSNSでは冷静に議論が出来ないのか?」という疑問に始まる。

 例えば「X」では、「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」といった機能が実装され、「似た者同士を見付け易くし、不快なものをフィルタリングする」という性質を持つ。この機能が何往復も作動することで、正常な議論は封殺され、非難や攻撃、罵倒がはびこることになる。
とはいえ、双方向通信のSNSの利便性がすべて否定されるわけではない。「マストドン」や「GironHub」のような分散型SNSの独立運営主体が群雄割拠し、それぞれがそれぞれの特徴を持って支持を獲得していくことで、不健全な環境にある現状を打開し、健全で実りの多いインターネット環境が形成されていくことだろう。

同社では、そのための一プレイヤーとして「GironHub」や「マストドン」の普及支援に取り組んでおり、そうした動きが世界各地で広がっていくことで、明るい展望が開けてくると確信している。
そもそもインターネットの爆発的普及は、世界各国の情報交換の距離と時間を縮め、文明の発展に貢献してきた仕組み。その上に展開する分散型SNSの普及は個人間の心理的距離を縮め、物理的な意味でも大都市から地方への分散に繋がって行く。

 同社が志向する「脱東京」と「インターネット上の閉塞感の解消」は、一方で、コロナ後の持続可能な働き方の追求にも通じる。東京一極集中より地方への「分散」、国際情勢やインターネット上に見られる「分断」より、多様な価値観を許容する懐の深い「分散」を追い求める。その姿勢を正に体現しているのが、小なりとはいえ活発な同社の活動なのだ。
「みんなが分散して行き、情報過多から一歩引いて俯瞰して見れば、目の前の問題が可視化されていく。そんな行動様式が浸透していく中で、『好循環』を取り戻しながら一つひとつの課題を解決していこう」と、脇元社長は自社の取り組みの意味を話し、賛同してくれる人材の参加を呼び掛けている。

【会社データ】
株式会社SGN

本社=東京都新宿区高田馬場3-13-3 高田馬場ファミリービル302
TEL=03-5937-2140
小川町オフィス=埼玉県比企郡小川町東小川2-22-1 UECHU内
創業=1999年5月
設立=2008年11月
従業員数=12名
事業内容=コンピュータシステムの設計・開発・保守、WEBサイト・映像・音響などのデザイン・コンテンツの企画・制作・編集、各種イベントの企画・請負・手配及び主催等
https://sgnx.co.jp

株式会社SGN/脇元寛之 代表取締役社長
『注目企業WEB』は株式会社マックスデザインが各分野における優良企業を独自に取材し、トップインタビュー形式でご紹介しています。

編集タイアップ企画のパイオニアとして、頑張る日本の中小企業を応援しています。マスメディアでは報道されない各社の素顔と魅力をお届けします。

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